論文・セミナー

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 破断の予測やスプリングバック解析など,高精度な板材成形シミュレーションを行うためには,高精度な材料モデルを使う必要がある.自動車ボディに代表される3次元板材製品の成形は,張出変形と絞り変形が混在する複合成形であるが,チャンネル部材など長尺品の成形では,板幅不変の平面ひずみ変形が支配的である.また,自動車外板などでも,平面ひずみ引張に近い変形を受ける部位は多い1).従って,材料モデルの根幹をなす降伏関数の妥当性を検証する材料試験法として,平面ひずみ引張における金属板材の加工硬化特性を精度よく測定するための試験法,すなわち平面ひずみ引張試験法が有効である.
 平面ひずみ引張における金属薄板の加工硬化特性に関する研究としては,広幅試験片を用いたWagoner2)-5) による一連の研究がある.しかしこの試験片形状では,標点部の板縁近傍で単軸応力状態になることは避けられず,その補正が煩瑣である.
また,Wagoner は,同試験法により,アルミニウム合金板2036-T43),アルミキルド鋼板
および2 相組織鋼板4),7-3 黄銅5) の平面ひずみ引張における加工硬化特性を明らかにしている.しかし鋼板の加工硬化特性に関するWagoner の結論4)は,筆者らの見解とは異なるものである.すなわちWagoner は,上記2 種類の鋼板の平面ひずみ引張における応力ひずみ曲線は,Hill の2 次降伏関数による計算値とほぼ一致すると結論づけている.しかし,筆者らが行った各種冷延鋼板の二軸引張試験6), 7) の結果によれば,等二軸引張から平面ひずみ引張に近い応力比2:1 もしくは1:2(圧延方向応力:圧延直角方向応力)にかけて,塑性流動応力の測定値は,Hill の2 次降伏関数による計算値よりも小さく,
Wagoner の結論とは異なる実験結果となった.
 本研究では,油圧サーボ制御型二軸引張試験機と新たに考案した十字形試験片を用いた高精度な平面ひずみ引張試験法を提案する.そして,r値の異なる2 種類の冷
延鋼板の,平面ひずみ引張における応力ひずみ曲線(加工硬化特性)を明らかにすることを目的とする.さらに測定された応力ひずみ曲線を,Hill の2 次降伏関数8) ならびにHosford の降伏関数9), 10) による計算値と比較することにより,それら降伏関数の妥当性を検証する.

電通総研グループ

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